北欧の近代デザインは、「生活により美しい日用品を」を目指して今日にいたっています。その実証にひとつが、このJ39の椅子です。1947年の製品化から約60年あまりを経て現在なお生産され、庶民の家具として愛され続けてきました。デザイナーは、当時FDBで家具部門のデザイン責任者をしていたボーエ・モーエンセンです。FDBとは、北欧において一般市民や農民を保護育成するために組織された生活共同卸組合で、生活用品などを安く販売する活動を行っていました。ユトランド半島の西部の町タームにつくられたFDBの工場では、組合員のために健康的で使いやすい、丈夫な家具が製造されていて、J39はそのひとつとして誕生したのです。
丸棒だけを組み合わせたフレームに、わずかに傾斜をつけて後ろ脚に取り付けられた、緩やかなカーブを持つ幅広の曲木板でつくられた背。紙紐を編み込んだ座面。この座は、座った時収まりがいいようにお尻を囲むようにへこんでおり、古くから地中海地方の農家にみられる藁紐編みの椅子と同じ手法でつくられています。はじめはシンプルな構造にそっけなささえ感じてしまいそうな椅子ですが、使ううちに手軽さと、どんなときも身体を支えてくれる安心感に魅力を感じていくのではないでしょうか。何気ない小さな椅子ですが、モーエンセンと彼が師事したコーレ・クリントのデザイン思想が集結している椅子です。
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