トーネットの曲木椅子「NO.14」が出来るまで

トーネット No.14

近代になって椅子が庶民の間に広がってくると、椅子は絶対的な量を必要としました。こうした時代の要請に応え、椅子の大量生産を可能にするまでには、ある若者の挑戦の歴史がありました。

 

ドイツ生まれの家具デザイナー、ミハエル・トーネットは、若干23歳にして、小さいながらも工場を持って、日々、椅子作りに励んでいました。しかし、複雑な工程を必要とする椅子作りは、手間も時間もかかるもので、生産が追いつかない状態でした。とくに、当時のドイツで流行していたビーダーマイヤー様式のデザインは、手間がかかりすぎました。何とか効率的に椅子を作ることができないかと、トーネットは木を曲げるための実験を重ねます。その結果、お湯や蒸気、ニカワなどで適当な熱と水分を与えることにより、硬い木を曲げることができました。トーネットは、特許を取ったこの方法を応用して、ステッキ、コウモリ傘の柄、椅子などを作り、地元の産物品評会に出展します。トーネットの作品は、品評会に訪れていたオーストリアの宰相、メッテル二ヒ公の目にとまり、腕を見込まれたトーネットは、ドイツを離れてウィーンの宮殿で家具の製作や修復に当たりました。

 

3年間の宮殿での役目を終えたトーネットは、ウィーンのカフェ「ダウム」から、店内用の椅子の注文を受けます。トーネットは再び、木を曲げる実験を繰り返し、数えきれないほどの試行錯誤の末に、素材にはブナ材が最も適していることを突き止めました。熱と水蒸気を与えて軟らかくしたブナ材を、鉄製の型にはめ込んで乾燥させることでカーブを固定することができたのです。トーネットがこの加工方法で完成させた曲木椅子は、後に「ダウムの椅子」(NO.8)とも呼ばれています。

 

トーネットの曲木椅子は、背もたれがカーブを描く2本のブナ材のみで構成されています。シンプルなデザインであることは、軽くて、持ち運びがしやすく、店内に置いても視覚的に邪魔にならず、かつインテリアに柔らかい雰囲気を与えることにつながります。また加工が簡単にできることは、一度に大量の椅子を作ることを可能にし、結果として価格を安く抑えることができました。特に「カフェ・チェア」(No.14)と呼ばれる椅子は、シンプルでモダンなデザインが人気を呼び、ウィーンのカフェの椅子として世界的に有名になり、一般家庭のダイニングルームなどでも用いられるようになったのです。

 

 


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